プロダクションノート

原作者の生地、福島でオールロケ

本作はオール福島ロケで撮影されました。映画の中の架空の町「春見町」は三春町と国見町でできています。原作者、玄侑宗久さんのお寺、福聚寺がある三春町は樹齢1000年を誇る「三春滝桜」で有名。開花の季節には30万人もの観光客が訪れます。浄念がつとめるお寺、龍雲寺は原作者・玄侑さんにご紹介いただいた県北・国見にある同名のお寺。源義経にまつわる伝説や史跡の残る町で、桃をはじめとして果物のおいしいところです。

オーディションを勝ち抜いた福島キャスト

本作では福島全地域に呼び掛けて一般オーディションを実施。2009年9月6日、三春の三春交流館まほら、翌日7日は国見の観月台ホールにて行いました。まさに老若男女にお集まりいただき参加人数は予想を大きく超えて計667人。レベルの高い闘いで、2次オーディションでは選考が難航。演技はまったくはじめての山口拓くんほか、冒頭を飾る女子高生や進行役の教師、スーパー前の不良たち、スナック「こころ」の常連客のみなさんなど、重要な役を演じていただいた福島キャストは全17名。エキストラとしても多くの方に参加していただきました。

原作への想いゆえに、新しいシーン&人物

奥深いテーマをもった「アブラクサスの祭」は、いかにも映画向きとは言い難い純文学。監督が映画化するにあたって、文字で書かれた浄念の内面を音と画にできる、とプロデューサー陣に確信させたのは、プロットに書かれた海のシーン。また、最後のライブの場所を原作のスナック「こころ」からお寺の境内へ替えることを原作者にお許しいただけたことで、映画としての強いラストシーンが生まれました。シナリオをなおしていくなかで、生まれたのが庸平さんの息子、隆太。そこから冒頭の高校のシーンもかたまっていきました。

福島の言葉の魅力を生かして

福島の言葉の魅力を生かして

県外からやってきた設定の、浄念、多恵、麻子は標準語ですが、地元で生まれ育った玄宗、庸平、隆太などの方言をどうするか。シナリオ作りの後半は「なまり」の程度が検討課題になりました。公の仕事の時は標準語、感情が現れるところは方言、などの基準が人によって決められました。まだらになまるという難しい注文を、庸平の親戚役で出演している笠原さんが方言指導のもと、みなさん、みごとにクリア。福島県の言葉は県内でも、会津、中通り、浜通りという地域よって大きな差があるそうですが、本作は中通りの言葉です。

ナム、16歳

原作に登場する老犬ナムをどうするかは、企画段階から懸念された大問題。死にそうな演技ができる老犬が動物プロダクションにいるはずもなく、一時は犬の登場自体、あきらめかけたことも。でも、奇跡は起こりました。ロケ地国見に撮影の2カ月前から住み込んでいた押田プロデューサーから『ナムに出会いました』のメールが! 吉田家の“ごん”の映画デビューが決まった瞬間でした。“ごん”は目が見えず、耳もあまり聞こえません。急な環境の変化はつらいだろうと、前もって現場に慣れてもらったり、犬小屋ごとの出演にしたり、気は使ったつもりですが、大変でしたね、“ごん”君。冬をちゃんと越して元気に過ごしているそうです。

ラストライブのかがり火ステージ

福島の言葉の魅力を生かして

シナリオを読んだスタッフたちが一番悩んだのが最後のライブのステージのありよう。これは夏フェスのような野外ライブなのか、寺の境内での祭のようなイメージなのか。議論を重ねたのち、設営場所としては「浄念が町に向かって歌う」ということを表すために、お寺の前の田んぼに。ステージのデザインとしては、ひのきの無垢材で作られたフラットなステージ、その周囲にはかがり火が焚かれるという斬新なプランが美術さんから提案されました。山の天気は変わりやすく、撮影日の天候や気温が心配され、当日の朝は濃霧に頭を抱えましたが、シューティングの時にはおだやかに晴れて、狙い通りのシーンを撮ることができました。

ミュージシャンの共演、競演

主人公はもちろん、ライブで競演するミュージシャンも、みな本当に演奏できる人たちで、というのが監督のこだわり。ラストのライブはギターに會田茂一(FOE)、中尾憲太郎(元NUMBER GIRL/SLOTH LOVE CHUNKS)のベース、小松正宏(bloodthisty buchers)のドラムというドリームチームが参加しました。監督がシンクロ(現場での録音)を強く希望した夜のシーンでのセッションは10分以上続き、集まったエキストラの皆さん、見学の人々を魅了しました。姿は登場しませんが大友良英のギターもあとから参加しています。

また、元KEMURIの伊藤ふみおがライブハウスのマスター役で出演。歌っていただけなかったのは残念でした。ライブハウスの過去のシーンのドラム小島一浩とベース岩井エイキチはスネオヘアーがライブで気心の知れた二人。現在のシーンでリハ中の3ピースは監督の学生時代からの友人のバンド「裏道」です。

また、エンディングには原作にも登場するカナダのシンガー&ソングライター、レナード・コーエンの名曲「ハレルヤ」を、スネオヘアーが部分的な訳詞も手掛け、ともさかりえと共にカヴァーしました。演奏にはラストのライブメンバーがまた顔をそろえました。

音楽ファンの監督は、演奏シーンや録音の場では、しばしば聴き惚れて仕事を忘れそうでした。